ずっとずっと変わらない

大事なものは目に見えないものばかりで
ひとりでいると不安ばかりが膨れ上がっていく。
いちばんたいせつでただ一つ、形あるものには 届かなくて。

本当は、届かないとわかっていたから手を伸ばすことさえしなかった。


これが夢なら 醒めなくていい。












キ ラ キ ラ
  Polaris...7















おかしいなあと思った。
確か居間のソファでテレビを見ながらウトウトしてしまって、 それで眠りの世界との狭間でチャイムがなった気がして、むっくりと起き上がって玄関の扉を開けたら。

いつだって思い描いてきた姿が、あって。






「…………、結 人?」



見たままの言葉が勝手に出た。そしてすぐに怖くなる。
呼んでしまった、と思った。
誰も責めなんてしないのに、空が落ちてきたほどの 一瞬でぺしゃんこになってしまいそうな 重い背徳が、わたしに向かって垂直に落下してきたのがわかった。


動きが遅かったのか、スローモーションに見えたのかの区別もつかない。
ただ、顔を上げたその人は やっぱり結人だった。
見間違えなんてするはずないのだ、はじめっから。


それで、わかった。これが夢なんだって。









「おめでとう。」
「え?」
「おめでとう、おめでとう、おめでとうおめでとうおめでとう・・・・」



実際はきっと沈黙なんだろう。
耳の奥で、自分の声がした。4年前のわたしと結人。

もうきっと会えないだろうと思って、嫌になるくらいおめでとうと言った。



「なんだよ、どうした」
「何でもないの。わかんなくていいの。」



うん、わかんなくていいよ。今も、これから先もずっとずっとわからないままでいて。
結人がよぼよぼになって死んじゃうまでの一生分のお誕生日おめでとうだなんて、きっと知ったら怒るから。

あのとき思いついたわたしが結人にできることが、こんなちっぽけで、無意味で、慰めで、浅はかだなんて笑える。 ほんのちょっぴりの嘲笑と18歳といっても子供染みた自分への懐かしみを込めて。



わたしはあまりにも非力で結人のために何もできなかった。
ただ、いつもみてるよ。
生まれてから死ぬまで、たったひとりの人を一途に世界の何よりも大切だと思えることは 間違いなく尊いこと。

こんなわたしに、そういう存在がいるというだけで、幸せなんだ。











わたしはどれだけの沈黙だったのかもわからないまま、胸にいっぱいに溜まった温かさがくすぐったくて、 ふふ、と笑った。







「…



それは、わたしの名前だった。
それを呼んだのは、結人だった。





視線がぶつかって、その衝撃に呼吸が止まる。




はじめから夢など醒めていたのに。












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061009