吸い寄せられるように気づいたら目の前で向かい合っていて瞳がぶつかる。
の眼の中に俺がいて、俺の眼の中にがいて。
ああ、いっそ本当にそうなってしまえばいいのに。

こんな気持ちを、君は何て呼ぶ?







Our Tiny Star
  Polaris...final












「なんで…」

ぽつりと呟いた。それは俺も言いたかった言葉で、 何でって思うのに嬉しい。 俺が思ったこと、が話す。昔はそんなの気にできないくらい自然なことだったのに。
何年ぶりだろう、君の声は今確かに俺に届いてるよ。

俺の声も今なら、君に届くんだ。


「おばさんに用があったんだけど、手間 省けた。」
「え?」
に会いに行こうと思ってさ」
「わたしに?」
「そ、俺が会いに行くやつなんて、他にいるか?」
「ほかに、いないの…?」








   *





香水の匂いと懐かしい匂い。
初めての力強い腕、日に焼けた首元。

「最初っからいねーよ、ばーか」

夢にまで見た、結人の声。
言いたいことは山ほどあるのに、次から次へとこみ上げてきて、 押し合って圧し合ってひとつも言葉になってくれない。
強がるのをやめたときから、不思議と涙は出なくなった。
悲しいことが少なくなったから。 自分を苦しめることが、少なくなったから。
でも今涙が止まらないのは、嬉しいから。
堪らなく愛しいから。

結人に抱きしめられたことなんてなかった。 あんなに一緒にいたのに、22歳になって初めて。痛いくらいで、嬉しい。 思い描いていたよりもずっと力強くて、ずっと優しくて、もっと愛しくなってしまう。
幸せだと思っても、いいですか?


「ゆうと」






  *






腕を緩めるとは俺を見上げて笑った。
細くなる目尻から涙が押し出されて流れる。
俺は指でそれを受け止めて、つられて笑った。


「あー…よかった。忘れられてなくて」
「そっちこそ、とっくに忘れてると思ってた」
「忘れるどころか、思い出にすらなってねーよ」

はきょとんと不思議そうな顔をする。
22歳のには初めて会うのに、やっぱり俺の知り尽くしてるのまんまで 余計に嬉しくなった。

「4年間ずっと、は現在進行形だった」
「わたしも、そうだよ。22年間ずっとそう」

ふふ、と自慢げに笑う。笑い方もそのままだ。
髪を撫でる。伸びたけど、昔よく結ってやってた、あの頃と同じ。


「留学は、2年間でね。この前帰ってきたの」
「俺は、イギリスに行く」





  *




「待たせて、ごめんな」

びっくりして言葉を失ってしまったけれど、結人を見つめると つられて落ち着いた。不思議ね、今までは結人を落ち着かせるのがわたしの役目だったのに。
変わらないところ、少しの変化、でもやっぱり結人もわたしも、おなじだ。


「わたしに会うために?」
「…そのために、プレミアに行く」
「移籍するってこと?」
「まだ監督しか知らないけど」
「……星に、着くんだね」

おめでとう。
今まで生きてきてこんなに幸せな気持ちなったことなんてあっただろうか。 こんなに心から「おめでとう」と言いたいと思ったことが、いままで。
あの星に、結人は降り立つ。自分自身の力で。
せっかく止まった涙がまた頬を伝う。
今日のために、とって置いたんだ。


「一緒に」

わたしの涙を拭いながら結人が言った。
笑っているけどすぐわかる。この笑顔は緊張しているときだ。


「はい」






その笑顔で、わたしはすぐに幸せになれる。
















23歳の誕生日には、永遠の先まで続く約束を あの星で。









END



T O P

050820-080413
All I want to say Thank you to everyone.
下野