真っ暗な闇の中に一人で立っていて、なんとなく感じた。
ああ、もう世界は疲れてしまったんだ。

遠くに星のようなものが見えた。ぼやっと、埃をかぶっているようにくすんでいる。
今は夜みたいだ。

この夜が終わるころに俺たちも消えていく。そう思えば俺にとって大事なものなんて、片手くらいしかないと思うんだ。


ゆっくり瞬きをすると、埃かぶった星は突然ジリジリと線香花火みたいに燃え出して、 真っ白に輝いた。
眩しくて固く目をつむると、そこには逢いたくてたまらなかった人がいて。



何百年もそのときを待っていたように、俺が呼びかけると夢の中のが笑って俺の名前を呼んだ。










SUPERNOVA
   Polaris...6












「4年ぶり…か、あんま変わってねえなぁ」


駅からバスで10分。俺の生まれた住宅街はゆっくり時間を過ごしていた。
少しずつ変わっているところもあったけど、大阪に行ってからの4年間、どれだけ俺が猛スピードで走っていたのかを考えさせる。
そっか、俺ってこんなにゆっくり生きてきてたんだな。

走ってみて初めて、そういうことがわかった。



バス停からの道をゆっくり歩いた。
日が落ちた街は薄暗くて、まだあまり目が慣れない。
ぽつりぽつりとある街灯の灯が、ぽつりぽつりと昔を思い起こさせた。

俺はどのくらい変わったのかな?
その答えをくれる人には、まだ会えそうにない。


あの角を曲がると、いつもとしゃべった砂利の駐車場。
タイムマシーンに乗ったみたいに、あの頃の俺たちに会えそうな気さえした。
妙に緊張して、角の電灯を目指す。
ゆっくりと角を曲がると、駐車場はキレイに舗装されていた。
いつの間にかじっとりと汗ばんでいた手をジーパンにこすり付けて思わず笑えた。
そうだよな、やっぱり多少は変わるよなあ。
いちばん変わったのはきっと俺なのに、卑怯だ。

「そんな思い通りには、なんねえか」


少しだけ、足を速めた。


家の前にはちょうど街灯があった。
ようやくそれと同じ種類の街灯が並び始めて、いよいよ近づいてきたことをさり気なく俺にわからせる。

あー…くそ、やだなあ。なんで英士も一馬も住所知らねえんだよ…。
おばさんなら絶対教えてくれるだろうけど、すげーにこにこされるに決まってる。
はあ。なんでおばさんは鋭いのにあんな鈍い子供が生まれたんだろ…。反動か?

わしゃわしゃと頭を掻いても、文句を頭の中でどんなに浮かべても、足だけはまっすぐの家に向かってる。
なんか、すっげえ悔しい。












もっと色々、何て言おうかとか考えて決意を固めてから押すはずだった俺の右手の人差し指は、 俺がの家と向き合ったらすぐに、勝手にインターホンを押していた。(この動作が染み付いてる自分がもっとムカツク)

はあ、とため息をつくと、ガチャというドアの音。
懐かしいんだよなあ。ドアの音なんてどこも一緒だろって思うかもしれないけど、何かが違う。たぶん俺の主観。
ん家の玄関のドアの音を聞くだけで懐かしくなれるなんて、俺も相当きてる。




















「…………、結 人?」




足元が地面ごと、ぐぐぐ、その声に引っ張り上げられた。
はっとして顔を上げる。
頭で確認する前に体が反応する、当たり前だ。
体中が風に吹かれたようにざわざわしている。
全身を巡ってる血が一気に心臓へ帰って来た。


聞き間違いでも見間違いでもない。
そんなの、するわけ ない。
どんなに伸ばしたって、どんなに叫んだって俺の腕も声も届かないところにいるはずなのに。


何百年もそのときを待っていたように、俺の名前は 確かに に呼ばれた。














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060813