ずっと同じ場所にいるから、安心しきっていたのかもしれない。 ずっと変わらないから、好き勝手やっていられたのかもしれない。 夜の向こう Polaris...4 が留学した。 それを聞いたのはもうきっと向こうで生活し始めているだろうってぐらい後で (それまで英士と会って話す機会がなかったのも事実だけど)、 俺は一度に怒りだとか驚きとか悲しみとか寂しさとかいろんな感情に襲われた。 でもそれを全部、思いっきりぶつけてやりたい相手はもう手も声もいくら伸ばしたって足りない。 「ほんとに会ってなかったんだ」 「その前になんで英士が会ってんだよ」 「ちょっと用事があったから、柏とやったときに3人でね」 「そういう時って俺いっつもハブだよなー、けっ、もう慣れましたけどねー」 「はいはい」 「……」 ソファーの背もたれに身体を投げて、盛大に溜息をついた。 どうして話してくれなかったんだろう 俺は決まった時、一番にに話したのに。 いくら連絡を取ってなかったとはいえ、日本を離れるときくらい教えてくれてもいいもんだ。 つーか、正直なんで英士と一馬には言って俺に言わないのかってところが、心底気に食わない。 言うタイミングがなかったとか、そういう簡単な問題じゃなくてこれは、だから 確実に 俺を避けたってことなんだ。 何か俺に原因があったのかと考えてもまったく心当たりがないし、 だいたいは変に真面目で考えすぎて遠回りして結局何もしないまま終わることが多かったから、 悩んだ末の結果、俺にとってそういうのが煩わしくなるんじゃないかと思ったってところ だろうと思うし、それはほぼ間違ってないと思う。 でもやっぱりムカツク。俺ばっかりが大事みたいで。 が俺を放り投げたみたいで。 「あー……イギリス…」 「遠いね」 「うっせ、わかってんだから口に出すなよ。余計遠くに感じるだろ」 「知ってるけど」 「はいはい、ワザトね、お前ホント性悪」 英士は俺が落ち込むのを楽しんでいるように口の端を少し上げて笑う。 ホント、ほんとにこういう時の英士はたまに殴ってやりたい…せめてデコピンぐらいさせろ。 俺が嫌そうな顔をして英士を見ると、英士は片肘をついてまた笑った。 「でも結人がしたことと同じでしょ」 「は?」 「結人が先に離れて、ここに来た」 「……そうだけど」 でも俺はが好きなんだし、の方が遠いし、は俺に何も言ってくれなかったんだから、 俺の方が絶対ずっと辛いじゃん そう言いかけて、やめた。 俺とを比較するなんてあまりに子供染みてて、英士に声をあげて笑われる。 それに、きっとあの頃はまだ夢の中に夢を見ていた頃だったから。 だってきっと、こんな風に辛かったんだろう。 それでも笑って背中を押すのは、今の俺でも難しいことだから。 はいつも、俺のために。俺はいつでも俺のために。 今までそれが当たり前で、何の不満もなかったし、そのひどく不平等な仕組みを 不思議だと思ったこともなかった。 それが今になって、もしかしたらはそれをずっと胸につっかえていたのかもしれない。 なんて考え始めて、結局離れたって俺はこれっぽっちもを手放してないんだ。 「ちゃんは結人の思い出じゃないんだから」 結人の都合がいいように、ずっと同じ所に留まってる方がおかしいよ 「そっか…当たり前、だよな」 「当たり前でしょ」 「うわ、俺まじで恥ずかしい」 「今ごろ気づいたの」 結人は恵まれすぎなんだよ 英士はまた例の笑い方で笑って、なんでもお見通しなんてわかっちゃいたけど、ホント ずるい。 がずっとあそこにいるって、確かに思ってた。勝手に思い込んでた。 だから俺はあの時言われた通りにわき目も振らずに走って、走って……が そこで見てたから もし逆の立場だったとしたら、俺は 応援はもちろんしてる。 けど、でも、きっとすぐに好き勝手やり始める に違いない。 だから、やっぱりそういうが好きだし が必要なんだ。俺には。 俺がを放っておけないんじゃなくて、俺がに放っておいてほしくなくて、俺がを放っておかないんだ。 「わははっ」 「何いきなり……気持ち悪い」 「うっせ!つかなんでいないんだよかずまあー…!」 「電話でもすれば」 「おっ、しよーぜ」 充電器に置きっぱなしだった携帯を取り上げて、窓辺に移動する。 北向きの窓から見える星空にやっぱりあの星はあって。 金の粒みたいに輝いて仕方ない星を挟むように、消えそうなくらい瞬いている2つの星が微かに見えて わらった。 N E X T 060109 |