目の前を結人の乗った5両目が過ぎる。

わたしの笑顔は、結人に届いたかな。
笑ってさよならしたかった。結人がいなくても大丈夫だって、 わたしにわからせてやりたくて。

昼過ぎから降り続ける雨で、星なんて一粒も見えなかった。
それでも、遠ざかってもう見えなくなった新幹線と反対の方向の空に願う。
どうか、結人を止めないで。
もしわたしの存在や思い出が、結人を振り向かせてしまうなら




わたしを忘れてしまえばいい。















  星になれたら
    Polaris...2















結人は昔からみんなに好かれる人だった。
幼稚園の先生にも、バスの運転手さんにも、小学校の友達にも、先生にも、 中学だって、高校だって、結人は誰からも愛された。
どこへ行っても、結人は人を惹き付ける。

いつの時代も、どこであっても、大きな木には小鳥が集う。



でもわたしは、その小鳥にはなりたくなかった。
小鳥はすきだけれど、結人の周りの人たちも、だいすきだけれど、 おこがましいとわかっていても、わたしは、星になりたかった。

六等星じゃなくて、もっともっと暗くて、地球からは見えない、遠い星。 でもその星からはちゃんと地球が見えて、大きな木が見えて、 暗い夜でも、小鳥達が寝静まった夜でも、ずっと木を見つめる。

そういう、星になりたかった。



ねえ結人、結人はいつもわたしを守ってくれたよね。
刃物みたいな暑い日差しに、いつも梢を広げてくれた。

これからわたしたちは背中合わせになるけれど、もう会えないけれど、寂しくなんかないよ。
ねえ、今はわからないけれど、そのうちきっと、一緒にいた頃みたいに大きな声で笑える日が来るから。



だから、絶対に忘れはしないよ。おばあちゃんになっても。

幼稚園のとき、結婚式ごっこしたことも、 小学校のとき、階段から落ちたわたしを支えようとして一緒に潰れたことも、 中学校のとき、結人に初めて彼女ができたときのことも、 高校のとき、U-17の遠征で誕生日にアルゼンチンから電話してくれたことも。

どれもいたずらなやりとりばかりだけど、それでも、結人がわたしにくれた 小さな愛たちは、恋愛なんかじゃなくてもわたしには充分だ。
このあたたかさを、ずっと守っていける。




ねえ、今日までわたしは星に願ってきたよ。
夢が叶うように。わたしたちの、夢が。
毎日、雨の日も、曇りの日も、星が見えない昼でも、 真北の空を見上げない日はなかった。

見えない星でもあるんだ、見えないものでも、確かに。



ああ、わたしはそうやって、長い長い時間をかけて自分を守ろうとしてきた。
14歳のあの日から、いつかは別れがくることを知った。 幼馴染でも、この道を選んだわたしたちは、ずっと一緒にはいられない。 あの日からわたしは、夢のために願うと同時に、あの星の隣にわたしにしか見えない小さな星を、 描いてきた。

見えなくても会えなくても、わたしがここにいる限り、 結人のために何かができる。
もう守ってもらえないから、わたしがわたしを守る、わたしが結人を守る。


あなたが星に着く頃
わたしは1人、泣くから。

そうすれば、あとはもう進むだけ。
さようなら。あなたの声を、ずっと抱いて歩いていく。


変わってゆくわたしを笑ってもいいよ。 でもわたしの思いは、きっと変わらない。





 N E X T (最後の1歩)



051010