明日俺は、大阪へ行く。
俺達は今でも幼馴染で、俺は、今でもが好きだ。













 
 P  o  l  a  r  i  s
君の指先に輝くあの星まで
















本当は、ちょっとだけ、期待してた。
寂しいとか、行かないで、とか。ちょっと泣いたりしないかなって、期待してた。
が行かないでと言っても、こればっかりは行きません!なんて言えないけど、 結局は行くんだけど。でも、行かないでって言ってくれたら、好きだ、て言えると思った。

ま、は行かないで、なんて言うやつじゃないんだけどな! (わかってたさ!おーわかってたよそんなこと!)


でも18年も幼馴染やってきたんだ。最後くらい俺が必要とされてた(もしくは必要とされている)のか 確かめたいもんなんだ、男ってやつは。









「結人、帰って来ないでよ」


さっきまで、ふふ、と笑っていたは、突然真剣な顔に戻って言った。 昔からはなんでか俺にばっかり冷たい言い方をする。
他の友達には優しい話し方で、優しい言葉を選んで話すのに、 昔からは、俺にだけわざと冷たい言葉を選んだ。
それはたぶん、すぐに高くなる俺の鼻をうまい具合の高さに調節するためだ。



「世界に行く人はね、過去とか思い出とか振り返っちゃいけないの。 もう、わき目も振らずに前だけ見るしかないんだよ。」


まるで何でも知っているかのように、は言った。 でも、それは正しかった。 振り向いたら、抜かされて引き離されるから、そんな余裕ない。そんな世界だ。
そんな世界を、俺は選んだから。


もう、会えないかも知れない。







「なー、
「何?やっぱり言う気になった?」
「それじゃなくて、」
「なによ」

「一生のお願い!」

「結人、それ小学校5年の時に使ったじゃない。」
「・・・・・」
「・・・・ぷ、いいよ。餞別で聞いてあげる」



まったく結人くんはしょうがない子ですねえ。でも、内容によるからね。は釘をさして、また笑った。 最後だって言うのに、今日のはとびきりよく笑った。 最後だから、いいかも。やっぱ俺のために泣いてほしいってのはあるけど、 泣き顔(もう随分見てないから忘れた)より、笑った方がきっと俺は好きだから。






「見送り、来て。」


待ってる、と俺も笑ってみせた。
今俺が伝えられる、最大限だった。何か言おうとしたを遮って立ち上がる。 「帰るかー」も、はあ、と溜息をついて観念したように立ち上がった。
何だかんだといろいろ厳しいことを言ったり文句を言うは、 いつだって俺が絶対、と決めたことは否定しなかった。
いつだって、俺のわがままにも、最後には笑った。




帰り道、俺たちは何も話さなかった。
の家の前まで送り届けると、
「目の前の結人が、テレビの結人になるんだね」
じわ、と歯の奥が溶けるように、ひっそりと噛み締めて言った。
それで俺は、充分だった。


の家からひとりになって、無駄にゆっくり歩いた。 北の空を見ながら転ばないように歩いていると、耳の奥から頭の方へ、4年前のの声が鳴った。
あの星は、季節が変わっても動かなかった。何年経っても、あの頃と同じ場所で、同じように瞬いた。

明日、と。この星を見たいと思った。

新幹線は夕方だから、星は見えないかもしれない。
それでも、あの時と同じように隣に並んで北の空のてっぺんを、見たいと思った。



そして俺はあの頃と同じように、わははと笑い、はあの頃よりも、少し大人っぽくなった やり方で、ふふ、と笑うんだ。










 N E X T (星になれたら)



050901