ジーウ ジーウ ジーウ ジーウ うるさく鳴り止まない蝉の声。うだる暑さに目も眩む。 漂うように歩いてあの道に立てばほら、君の愛した海が見える。 海岸通り summer 出会うのなんて簡単だ。 君は犬の散歩でこの道を通って、俺は夏休みでばあちゃんの家に遊びに来てて あまりに暇だから家から100mくらいのこの道まで来てランニングをして、そこへたまたま君が通りかかって 君の犬が俺に懐いただけ。 俺の名前と君の犬の名前が同じだったのは、単なる偶然なんだ。 「おはよ」 「おはよう、藤代くん今日も走ってきたの?」 「毎日それ聞いて飽きない?」 「あはは、飽きないよ」 「ちゃんも今日も散歩?」 「毎日それ聞いて飽きない?」 「飽きないよ」 2人して笑って、彼女は「おいで、セージ」と犬を呼んで抱き上げる。 俺はそれを見届けて防砂林の見える土手に座った。 この土手は台風になれば防波堤の役目を果たすらしい。でもそんなのたまーにで いつもはこうして俺達の椅子となり道となり、のんびり暮らしてる。 パキンといつものコンビニでパピコを買って来てくれるちゃんに、俺はそれを割って 片方を渡した。いつもおんなじ、コーヒー味。 冷たくて甘くてすこしだけ苦くて、広がる海によく似合う。 でも、 「コーヒー味も毎日だと飽きない?」 「実はちょっと飽きてきたかも」 「じゃあ明日から白いのにする?」 「あれ何味だっけ?」 「えっと・・・」 「ヨーグルト!」 「サワー!」 同時に言った言葉はちぐはぐで、俺達はまた笑った。 ちゃんの手から伸びるリードの先で、犬のセージが草の匂いを嗅いでいる。 「わたしどっちの味でも好きだな。藤代くんは?」 「俺もどっちも好き」 「じゃあ明日から白いの買うね」 パピコのお金の俺の分、52.5円が毎日貯まる。 順調に貯まって、それはもう4日分だった。 明日、俺は寮へ帰る。 ちゃんはそれを知らない。 ジーウ ジーウ ジーウ ジーウ 土手の下に広がる防砂林から蝉の鳴き声が響く。 その向こうにようやく海が広がっていて、お世辞でも綺麗な海じゃないけれど、 水面がキラキラと光るその海をちゃんはすごく好きだといっていた。 ちゃんは海が似合わないくらい色が白くて、道路からゆらゆらと立ち上る陽炎や 逃げ水みたいに思える。 俺はいつも先に食べ終わって、しゃべりながらもう溶けてしまったアイス(コーヒー?)を ゆっくりと食べるちゃんを眺めていた。 ちゃんが食べ終わったら、この時間もおしまい。 「こら、セージ!あんまりそっち行っちゃダメ!」 チューチューとパピコを吸いながらちゃんはそれを咥えてリードをくんと引っ張った。 いつの間にか俺達の左の方へ移動していたセージは引っ張られて一度後ろに下がると、 大人しくテコテコとちゃんの所へ戻ってくる。 「なんか俺が怒られてるみたい・・・」 「え?」 「だってさ、」 「あは、藤代くんは藤代くんだよ」 「そうだけど・・・」 俺のことも誠二って呼んでみませんか、冗談っぽく言うと、 ちゃんも冗談っぽく笑った。 「誠二くん」 あ!ほらね、誠二くんっていうと自分のことかと思っちゃうの、セージはばかね。 セージはちゃんの腕に収まって、ちゃんが「誠二くん」という度に目をぱちくりさせる。 それでも君の声は犬のセージじゃなくて俺の誠二だから、君に見えないようにへへっと笑った。 へへっと同じように笑うと、隣でストレッチをしていたタクが「気持ち悪いよ、誠二」 というから、君の誠二はタクの誠二にかき消されて君の笑う顔と、藤代くんが残った。 |