恋をしていた。
叶わない恋で、つまり先輩にはもう彼女がいて、
でもその2人を見てるのも好きで。
略奪愛なんて大嫌いだし、その前に振り向いてもらえる自信もなくて。

なんでそんな辛いのに好きになったんて、ノリくんに聞かれたけど、
好きになってほしくて好きになったわけじゃないじゃない。みんなそうじゃないの?

そう言ったら、まったくその通りやね、てくしゃっと笑ってくれた。
ノリくんは友達でよき相談相手で、わたしに恋をしていた。
2人揃って、口には出せない 恋をしていた。


3月、先輩は卒業。わたしの恋は終わって、ノリくんの恋が始まった。









BLUE TEARS
           







「言ってもええ?」
「だ、だめ…」
「まだあかんの?」
「……ごめんね」

「謝られるんもなんかな〜」


う〜っと小さく唸って下を向いた。
どうしろって言うの、と思うけど、言えない。
ノリくんに告白されたのは卒業式の日で、ノリくんに失恋記念日の報告をしていた時だった。




「僕さ、ちゃんのこと好きや」
「え?」
「ホンマはずっと好きやった」
「……ノリく」
「ええやん、失恋記念日が今日なら僕と今日から付き合って、その記念日にしたらええ」

そうしたら、悲しい記念日だけやなくなるし。



いつもと同じ、わたしをいっぱい安心させてくれた笑顔で言うノリくんのやさしさに、 ほんとに自分が嫌いになりかけた。
ノリくんの気持ちに気付いてあげられなくて、ずっとノリくんを傷つけてたなんて。




「な、ええやろ?ちゃん」


涙が出そうになる。
ノリくんはわたしが好きで、でもわたしはまだ先輩が好きだ。
もうすぐ好きじゃなくなるけど、でもまだノリくんのことを、先輩よりも好きになれるかなんてわからない。


「……だめだよ、ノリくん」

そんなことしたらわたしは、きっともっとノリくんを傷つけると思うよ。
ノリくんと友達でいられなくなるのは…やだなあって思う…ずるいのは、すごくわかってるけど。
だから、

「僕はええよ」


ノリくんのいつもの笑顔が今日はわたしを悲しくさせた。
口をつぐんだわたしは、何も言えなかった。


「なら待ってる。ちゃんが僕に好きって言ってほしいって思うまで」









わたしたちは、3年生になった。


ノリくんの態度はずっと変わらない。友達だ。
あの事がなかったみたい。わたしが好きだって言ったのは冗談だったってくらい、普通で。
わたしはついつい油断してしまう。きっとノリくんはそれを望んでるんだろうけど。

でも突然言う。何の前触れもなく、「言ってもええ?」それは合図だった。
そのたびにわたしはぞくっとして、急に緊張し始めておどおどしてしまう。
まだだめって、もう何回言ったんだろう。

でもノリくんがそう聞いてくれるってことは、まだわたしのことを好いていてくれるってことなんだ と思うと、とまどう一方で安心しているわたしも、いて。

ずるくて卑怯だ。

自分は応えられないのに、好きでいて欲しいと思うなんて。





ちゃん?」
「あ、ゴメン何?」

「何でもないよって、うわの空やったで」
「あはは、ぼーっとしてた」

「もうみんな帰ってもうたで、大丈夫か?」
「うん、帰らなきゃね!ノリくんは、サッカー?」

「せや、ほな気いつけて帰りや」
「平気やって、ありがとう」

「またな」
「うん、また明日ね」


校門まで歩いて、練習へ向かうノリくんを見送った。
ノリくんは途中で1度振り返って、いちばん星みたいな笑顔で大きく手を振った。
わたしも腕を伸ばしてたくさん手を振りかえした。



ノリくんがわたしに笑ってくれたのは、それが最後。










060805