神様はかつて、土の塵からアダムをお作りになり、アダムがひとりぼっちでは寂しいだろうと 彼の肋骨を1本とり、それからイブをお作りになられました。






HEIMAT







毎朝感じることがある。身体にかかる優しい重みが心地良い。
ゆるりと瞼を上げると初めに映るのは喉元、そして喉仏から顎につながっていく。
このときしか、わたししか見る事のできない角度で、彼を見る。
彼自身にも邪魔されずに、じっと見る。
日焼けの後や、小さな小さな黒子、うっすらと刻まれた皺。
その全てが愛しい。きっとわたしは首元だけでも結人を見分けられる。

わたしの頭が彼の腕の付け根の窪みにぴったりと重なっている。
初めて彼に抱かれたとき、それはもう驚いた。
ピッタリと、寸分の狂いもなく重なったのを感じた。わたしも、結人も。
まるでそうなるように設計されていたみたいだった。
オーダーメイドの洋服を着たときのように、シンデレラがガラスの靴を履いたときのように、

「ぴったりだ…ね」


わたしも結人も初めての感覚だった。何かが、どこかが埋まって、満たされる気持ち。
そして思い出したのだ、頭に文字が飛来してきたように、サーっと視界が開けるように。

「結人がアダムで、わたしがイブね」
「なにが?」
「イブはアダムの肋骨から作られたんだよ」

結人は何も言わずに微笑んだ。
生まれたところへ帰りたい。それは本能。わたしは、結人のところへずっとずっと帰りたかった。
わたしは、わたしの生まれたところをずっと探していたのね。
あなたの肋骨からわたしは作られた。
だから結人は満たされなかった。わたしは寂しかった。
だからぴったりとはまる。わたしは結人の肋骨なのだから、当たり前なのだ。
これが、答え。
何のことはない、ファンタジーだ。

それでもわたしも結人も本気で納得した。
素敵だね、って笑いあう。

不思議に思うことはない
不安を感じることもない

わたしたちはやっと元通り、ひとつになったのだから



身体にまきつく腕に少し力がこもって、強く引き寄せられる。
わたしの大好きな喉が少し震えて、髪にあつい息がかかる。
外に出ていたわたしの冷えた指先がゆっくりと頬に触れる。
結人の瞼がピクリと震えた。

おはようと言おうとしたとき、掠れた優しいおはようが降って来る。








080209