日中は日差しがとても暖かくて、もう春だなあとしみじみ思ったのに 太陽が西に傾いて、夕焼けがやけに赤くて目に染み入るような時間、 俺の隣を北風が通り抜けてちょっと震えた。 早く春にならねえかなあ、着ていたジャージのファスナーを上まで閉めて また歩き出す。 家まではあと5分くらいの地点。同じような家が立ち並ぶ住宅街は 真っ赤に染まる夕方だと余計に見分けがつかない。 この風の冷たさにみんな家に入ってしまったらしく、賑やかな通りも軒並み静かで、 なんか寂しいな、て思って顔を上げてみた。 向こう側から歩いてくるたった1人の人は、どんなに遠くからでも見つけられる、だった。 クレナズム it's my secret... 冷たい向かい風にも負けないで顔を上げて少し歩幅を広くした。 容赦なく目に入ってくる冷気に目が潤む。寒い。 追い風を受けてやってくるは寒さに縮こまったようにマフラーに鼻まで顔をうずめて 下を向いて歩いている。 俺には全然気付いてない。 お互いの顔が見える距離まで来て、声をかけようか迷った。 歩く速度を落とすと自然に歩幅も狭くなる。 結局言いあぐねている内にすれ違ってしまった。 瞬間がほんの少し顔を上げる。 「あれ、若菜くん?」 「おー、じゃん」 「サッカーの帰り?」 「うん。」 「そっか、寒いのに大変だね。お疲れ様です」 は、真っ赤にかじかんだ手でぐるぐると巻いたマフラーを下げて話した。 あはは、と笑うとぺこりと頭を下げる。 風が下がった頭のてっぺんを掠めて、髪が舞い上がった。 「あのさー」 「うん?」 「前から言おうと思ってたんだけど、俺のこと若菜くんて呼ぶのやめね?」 「え、いいの?」 「全然オッケー。フランクな感じで」 「じゃあ結人くんて呼ぶわ。わたしもちゃんとかでいいよ」 「マジで?わかった、じゃあちゃんて呼ぶわ!」 「あははー、うん」 ちょっと仲良くなったことに感動して、頬が温かくなった。 距離縮まったな!と思ったけど、いいタイミングで風が俺たちの間をひゅうっと抜けていって、ほんと、なんかへこむ。 立ち話しているせいでちゃんの鼻がだんだん赤くなってきてて、少し罪悪感。 「ごめん、引き止めて」 「え?全然いいよ?」 わたし誰かに会いたかったんだあ、だから今すごい嬉しい 笑い上戸のちゃんはまた、あははと笑った。 手放しで喜んでいいです、って顔をして言うからこれは素直な気持ちなんだなー、てすげー嬉しい。 ホントに手放しで大喜び。揺りかごダンスしたいくらい。 だから俺も素直な気持ちで返せた。 「あのさ、俺、実はちゃんのこと好きだったりして…、するんだけど」 「………」 黙って俯いてしまったちゃんの顔を少し屈んで覗くと、 マフラーを両手でぎゅっと掴んで目を大きく開いていた。 みるみる内に目に涙が溜まっていく。 「え?ちゃん?その、嫌だった?」 「…ごめん」 「えっと…」 「歯が痛い…」 「え?」 「はがいたいの…!」 うう〜と唸ってちゃんはすごく険しい顔をした。 歯が相当痛いらしい。つーか、俺の告白どこいった?ごめんて何に対して? 俺すげーてんぱったし…かっこ悪すぎる…気付かれてないけど。 どうやら泣きそうになってたのは歯の痛みのせいで俺の発言は突然襲ってきた 痛みに負けて、ちゃんは聞いてなかったらしい。 「さっき歯医者で神経ちょん切ってきたんだけどね、麻酔が切れたみたい。うう…」 ごめんね、結人くんなんて言ったの? ちゃんは右の頬をおさえて小さく言った。あんまり口が動かせないらしい。 あああ、瞬きしたらぼろぼろ落ちそうなくらい目が涙でいっぱいになってる。 かわいそう……でもかわいい…じゃなくて、じゃないよな、うん。 「いいや、ちゃん早く帰って薬のみなよ」 「ありがとう…そうする」 「うん、明日ひま?」 「あー…うん、ひま」 「じゃあ放課後ちょっと残ってて、そんときに言うわ」 「ん!わかった」 ばいばいと手を振って長い影をつれて歩いていくちゃんを見送った。 明日の今ごろも真っ赤に染まるといい、今度は聞き逃さないで、そんで…できたら笑って! 060323 |