「あっ!今蹴った〜もう、やめてよね」 「しょうがねーじゃん、狭いんだからさ」 「わたしは狭くないもん。あんたがでかいんでしょ!」 躍起になってバタバタするから隙間から冷たい風が入るし、ほこりは立つし、 机に膝をぶつけたみたいで、ガンって音の後に声を無くして悶える圭介。 いつもの爽やかな顔からは想像できないくらいやばい表情です。シャッターチャーンス。 くすっと笑って目線を下にしたら、おおおおおお、ちょっと待ってよ、紅茶がこぼれてる!! SUNSET 冬休みの課題がなかなか難しくて、教えてってメールが来たのが2時間前。 別に教えるのはいいんだけど、いいよって返したら、じゃあ家来て!とか言うもんですから ここから攻防が始まったわけです。 だって外気温7℃だよ!?圭介の家まで自転車で10分。絶対外に出たくないもん! なので、やだよ。お前来い!の応酬…。普通教えてもらう側が謙るものだよねえ? まあ、結果的にはわたしが見事勝利しまして、こうして圭介がやってきたわけです。 そして我が家の家宝とも言えちゃう勢いで、毎年冬に大活躍している掘りごたつに収まって お勉強中。なんだけど、どうしてじっとしていられないかなあ、圭介くんよ。 「ってー!…ダメだ…俺もう死ぬ」 「家に帰ってから死んでよ。もう、紅茶こぼれたし!台ふきん!」 圭介は嫌そうな顔でわたしを見つめてからよっこいしょ、と言ってしぶしぶこたつから抜け出した。 学校ではあんなに爽やかなのになんで休みの日はおっさんなんだろう。 台ふきんを取りに行かせたはいいものの、カップの中身はほとんど空で、仕方ないのでわたしも のろのろとこたつから抜け出る。 「う〜…足が寒い…」 「結局出てきてんじゃん」 「だって紅茶ないんだもん。誰かさんがこぼしたから」 「へーへー。すいませんねー」 「圭介おかわりいる?」 「もらう」 ティーポットに新しい葉っぱを入れると、残ってたお湯が染みてふんわりいい香りがした。 お湯が沸くまで時間があるからこたつに戻ると、圭介がやけに几帳面にテーブルを拭いている。 「あら、ご丁寧にどうも」 「ははは、そのうち俺の物になるからなあ。大事にしないと」 「なんで圭介の物になるのよ」 「え?くれないの?」 「誰があげるか!」 「くれ!」 「断る。」 えええええー。お前、それ訴えたら勝訴だぞ! やけに大きいリアクションで圭介はまたもぞもぞとこたつに入った。 わたしは知らん振りしてタイミングよくシュンシュンといい出したやかんのところに戻る。 「なー、ー。みかん食っていい?」 「いいよ」 紅茶にみかんって…いや、何も言うまい。 圭介はこれまた几帳面に皮をむいて、白い筋をとっている。 あれガン予防になるらしいから食べた方がいいみたいですよって豆知識でした。 淹れた紅茶を慎重にこたつに運ぶと圭介はみかんから手を離してカップを取ってくれた。 「どうもー」 「いえいえ」 「…わたしもみかん食べようかな」 さっきと矛盾してるけど、ね こたつの上の籠に山積みになっている中からおいしそうなみかんを探す。 たしか、細かい水玉みたいなポチポチがはっきりしてるのがおいしいんだよね。 そして閃いた。閃いてしまった……。 行儀が悪い…でも、やらずにはいられない! わたしはおもむろに筆箱から赤いマッキーを取り出す(何で持ってるのかとかは、まあいいじゃない)。 そして美味しそうなみかんを1つ取って、へたがない方にマッキーで星を…。 「圭介ー、見て見て!スーシンチュウ」 「うわ!お前バカじゃねーの!」 4つ赤い星が書かれたみかんに圭介は大爆笑。 バカとはなんだばかとは!ちょっと可愛げ出しただけじゃない。 あひゃひゃとさんざん笑った圭介は、貸してといってわたしのマッキーを取り上げた。 「おれが残りの6つの作ってやるって!」 「ノリノリじゃんか」 …… 「できた!」 「シェンロン来るかなあ」 「さあ?」 「出でよ!シェンローン」 「がおおおおお!!」 待て待て!シェンロンてがおおおて言うっけ!? ていうかあの山口圭介ががおおおって言ってますけど!! あっはっは、ともう笑いが止まらないわたしを尻目に、圭介は何事ものなかったかのように 振舞っていた(わたしたち2人しかいないから意味ないのにね)。 「さ、俺帰ろ」 「ばいばい」 「え!せめて見送れよ」 「わかってるよ〜」 自転車に跨って颯爽と夕焼けに向かって帰っていく圭介に門前で手をひらひらと振りながら考えてみた。 何しに来たんだろう……? こたつに戻って、宿題のノートを開いてみる。 「3ページしか進んでないよ…」 ダメだこりゃ。 060210 ドリフで落としてみました(´v`) |