ただぼーっと座っているだけで、いいことなんて、あるもんだ。 swing 家に帰ればお母さんの勉強しなさいの嵐で、今日は塾もないからいいじゃない。 そう思って、うんざりの家にはまだ帰らずに新しい帰り道でも探そうかといろいろ遠回りしてみた。 おお、こんな所にミニ住宅街が・・・!いつの間にできたんだろう。こ、公園まであるよ・・・。 (入っちゃう?) できたばかりのようで、その小さい公園には色鮮やかなジェリービーンズみたいな遊具が並べられていた。 でも子供は全然いなくて、静かで、逆に嬉しかった。落ち着くなあ。 取り合う相手もいないのに何でか早足になって2つあるうちの手前のブランコに座った。 低い。 新しい鉄の匂いがする。 傍の柱に鞄を立てかけて、ギッと漕いでみた。 足がついてしまいそうで、ピンと伸ばすと、今度は前の柵にぶつかりそうで、あわてて引っ込めてまたすぐ伸ばす。 あれ、伸ばしてても全然ぶつからないや。 小学校ぶりに乗ったけれど、ゆらゆらと揺れる感じも、宙ぶらりんの足が風を切る感じも、懐かしい。 目を閉じると、その感覚がますます際立って、風の音や抵抗や、金具の軋む音がする。 わたしはブランコが大好きだったことを、今更に思い出した。 「」 「ん?」 「わっ!」 「真田」 漕ぐのをやめたから、ついに止まってしまった。 だんだん振り幅が小さくなる感覚も、目をつぶれば尚更いい。 止まってもそのまましばらく、といってもわたしには30秒なのか2分なのか10分なのかわからないけど、 目をつぶったまま何も考えないでいると、名前を呼ばれた。 目を開けると日が傾いて夕焼けになっている。 声をかけておいて、真田はなぜかびっくりしていた。 わたしが寝てると思ったのかな。 「どうしたんだよ、こんなとこで」 「んー、1人寂しく下校中です。真田こそ」 「が寝てんじゃねーかと思って」 「やだ、ブランコに乗ったまま寝ないよ」 「はは、だよな」 さすがのでもそれはねーか、と笑って真田は隣のブランコに座った。 真田は小学校からずっと一緒で、家も割と近所だったから、男の子では割と親しい方だ。 小学校や中学校の真田はあんまり人とつるまなかったけど、高校生になっていい加減それもまずい と思ったのか、女の子と話してるのはあんまりみないけど、男の子とは仲がいいみたい。 わたしとは高校に入ってからはクラスも違うし、あんまり話さなくなった。 「なんか、真田久しぶり」 「あ、そういえば最近会わないな」 「クラス違うとねえ。わたしトイレ以外教室から出ないし」 「はは、引きこもりかよ」 「めんどくさいんだもん」 「それでも女子高生か、お前は」 まさか真田にそういわれる日が来るとは思っていませんでしたよ。 人って変わるもんだなあ、と真田をじろじろ眺めてしまう。 外見はあんまり変わってないけど、あ、日に焼けてる。 夕焼けで真っ黒な真田の髪が茶色く光る。カラメルみたいで、きれい。 「あ、真田さあ」 「?」 「中学の卒アルに、ほら寄せ書きみたいなの頼んだじゃない?」 「ああー。書いた書いた。」 「あれにさ、真田"12年間よろしく"って書いてあった。」 「・・・書いたかも、な」 「わたしあれ実はすごい嬉しかったのさー」 ぐ、と踏み込んで、ブランコを漕いだ。 揺れに合わせて赤い太陽がかすかに近づいたり、離れたりしながら 涙がたまっていくようにゆらいでいる。 「な、」 「12年かあ、って思った。」 「・・・・・長えな」 「うん、そんだけ同じ建物にいるんだよ。」 「すげーな・・・英士や結人より、といる方が長いってことか」 真田はどっかぼけてて、その2人は話してるとたまに登場するから、サッカー友達というか、 昔から真田と仲のいい人たちなんだろうけれど、わたしと一緒にいる時間なんて同じクラスのときだけ、 むしろわたしと話してる時だけくらいだ。そんな短い時間、足したところでその2人に及ぶはずもないのに。 「俺も帰ったら卒アル見てみっかな」 「じゃあ帰るか」 「えっ」 「なに?膳は急げって言うじゃん」 「や、あの、あのさあ!」 「む?」 ガチャンと金具がなって、わたしは揺れたままのブランコから飛んだ。 前に柵があるからそんなに大ジャンプはできなくて、あの足にビリビリと電気が走るような感覚はない。 何か話そうとする真田に振り向くと、真田は夕焼けを体中に受けて、眩しそうに目を細めている。 「俺、月木はサッカーなんだけど、それ以外だったら・・・」 「?」 「それ以外だったら、一緒に帰れる・・・・。」 「わたしが1人寂しく下校中だから?」 「・・え、」 「わたしが1人じゃかわいそうだから?」 ブランコに酔ってしまったのか、余韻なのか、まだゆらゆらと揺れている感覚がする。 わたしの目を見上げる真田は左半分だけをカラメル色にして、右の頬は夕焼けを染め込んだ ような赤だった。 「俺が前みたいにともっと話したいから」 ブランコは、金具を軋ませてまだ大きく揺れている。 051201 |