ほんのちょっとの、やさしさだけで。








    







新しく買ったオフホワイトのブーツを初めて履いて出かけた日。
足音が新鮮でついつい心も弾む。ちょっと顔を上げたら空も青くって、 わたしって幸せ!なんて実感してみた。

ガッ



「ぎゃ!」


うふふ、と笑いを口の中で抑えてスキップしそうな足も抑えて、 鼻歌を歌いだしそうなくらいいい気分で歩いていたら、突然視界が倒れた。
いや、これは逆だな、わたしが倒れた。
普通の人ならつまずく程度の出っ張りで派手にこけました。
手をついたのになぜか顔にも痛みが……。


「…大丈夫すか?」
「うう…」
「…?」
「く、くくくく功刀くん!!」


声をかけてくれたのは同じクラスの功刀君で、でもあんまり話したことなくて、ちょっと 怖い感じっていうか眉がいつもぐっと締まってて眉間にしわが…、みたいな人で、 女の子と話してるのみたことない。わたしも怖そうだからちょっと苦手…かも。
大きなスポーツバッグにジャージにジーパン姿の功刀くんはお休みなのにどうやらサッカーらしい。



「お前ちゃんと手ばついとうか」
「つきました…。この通り」


擦りむいた手の平を見せると功刀くんはいつもに増して険しい顔。
それに怖気づいて手を引っ込めると、引っ込める前に功刀くんはわたしの手首を掴んで 引っ張って立たせてくれた。


「手ついとおに、アゴも擦り剥くやつがどこにおる」
「あご、擦り剥いとる…?」
「派手にいっとるけん、出かけんならやめた方がよか」
「……はあ。そうですね、帰ります…」


でも困ったことに家まで歩いて15分。しかも人通りの結構多い道…
恥ずかしいし、ふんだりけったりだ。誰かと待ち合わせしてなかったのが唯一の救いだけどさ。
しょんぼりしているわたしに功刀くんもちょっと困っているようだった。
立ち去るタイミングがわからないみたい。じっとわたしを見ている。



「傷は残らんじゃろ、恥ずかしいなら隠しとけ」

功刀くんは巻いていたマフラーを解いてぐるぐると少し乱暴にわたしの首に巻きつけた。
怪我をした顎が上手く隠れる。


「え!でも功刀くんが寒い…」
「寒くなか。母親が勝手に持たしただけじゃ」
「いいの?」
「よかやなかったら最初っから貸さん」
「ありがとう」
「じゃあな」
「うん、ありがとう」

「…1回言えば充分じゃ」


少し離れた後に功刀くんは振り向いて言った。
服と全然あってないマフラーをぐるぐる巻かれて突っ立っているわたしの格好が可笑しかったのか、 微かに笑った。

そしてそれを見たわたしは、痛みなんて遠のいて胸がざわざわするのを感じた。















060821